流派の目録 その1・その2その3その4その5その6その7その8
「九鬼神流體術」 

 
 九鬼神流の體術 1は、第7代・九鬼浄隆(きよたか)によって整備され、その子・澄隆(すみたか)に於いてまとめられたと伝えられる。
 その内容は、甲冑組討(かっちゅうくみうち)の時代の荒々しい拳法の色合いが色濃く残されており、ひたすら當込(あてこみ) 2を重視して、小 手先の技法にこだわらない、戦場実用の武芸であったが、他の諸流とおなじく、おそらく、江戸初期には、素肌(すはだ)武術への改良・整備がおこなわれたものと推察される 3
 このうち、起本形(8本) 4については、幕末〜明治にかけての宗家(25代)・九鬼隆備(たかとも)が、古くからの九鬼神流は逆手や當込が中心で、とかく初心者の稽古に危険をともなうことが多かったため、苦心の末に考案し、二条城在番となって京都に着任した元治(げんじ)元年(1864)2月28日、御所に参内(さんだい)して、天覧に供している。
 また、この體術に、鉄板(てっぱん)と称する、二寸五分(75?o)角 5の、投擲目的の小武器を付属するが、これは甲冑武者(かっちゅうむしゃ)に対する効果を狙ったものである。

猪も避けて通れば怪我はなし、怪我せぬ為に学ぶ柔術(「天真兵法體術活法論」より) 


 

受太刀用木刀と短刀 

鉄扇と受太刀用木刀 

 

鉄板1 

鉄板2 


 
 

體術目録


構形(かまえがた)
 3本(裏3本)
表構
1:平一文字(ひらいちもんじ)
2:横一文字(よこいちもんじ)
3:真之一文字(しんのいちもんじ) 
裏 構
1:勝 身(かちみ)
2:正 眼(せいがん)
3:飛 鳥(ひちょう) 
起本形(きほんがた)
 8本
1:片胸捕(かたむなどり)
2:形 砕(かたくだき)
3:引 込(ひきこみ) 
4:内足枷(うちあしかせ) 
5:外足枷(そとあしかせ)
6:外足拂(そとあしばらい)
7:右前立(みぎまえだて)
8:左前立(ひだりまえだて) 
表形(おもてのかた) 
  13本(裏39本) 
1:霞捕(かすみどり) - 當込(あてこみ)・腕折(うでおり)・襟締(えりじめ)
2:胴返(どうがえし) - 腕 折(うでおり)・襟締(えりじめ)・両襟締(りょうえりじめ)
3:搦捕(からめどり) - 引 倒(ひきたおし)・足 折(あしおり)・向投(むこうなげ) 
4:追掛捕(おいかけどり) - 足折(あしおり)・天狗捕(てんぐどり)・横飛(よことび)
5:坐車(ひざぐるま) - 腕折(うでおり)・當込(あてこみ)・襟締(えりじめ)
6:拳流(こぶしながし) - 引込(ひきこみ)・腕折(うでおり)・當込(あてこみ) 
7:左右(さゆう) - 當込(あてこみ)・後投(うしろなげ)・手枕(てまくら) 
8:亂打(みだれうち) - 當 込(あてこみ)・腕押(うでおさえ)・引倒(ひきたおし)
9:片胸捕(かたむなどり) - 腕折(うでおり)・突倒(つきたおし)・逆倒(ぎゃくだおし)
10:両胸捕(りょうむなどり) - 腕折(うでおり)・十文字(じゅうもんじ)・両掛投(りょうがけなげ)
11:行違(いきちがい) - 當入(あていり)・押込(おさえこみ)・廻し捕(まわしどり)
12:天狗捕(てんぐどり) - 足折(あしおり)・突倒(つきたおし)・當倒(あてだおし)
13:巻込(まきこみ) - 押込(おさえこみ)・當入(あていり)・逆入(ぎゃくいり)
別伝
 2本(裏3本)
1:戒後砕(かいごくだき) - 當込(あてこみ)・後投(うしろなげ)巻返(まきがえし)
2:寫鳥(うつしどり) - 腕折(うでおり)肘落(ひじおとし)沈投(しずみなげ) 
捌形(さばきのかた)
  8本
1:片胸捕(かたむなどり)
2:両胸捕(りょうむなどり)
3:戒後砕(かいごくだき) 
4:鬼砕(おにくだき)
5:片手車(かたてぐるま)
6:衣返(ころもがえし) 
7:脊負投(せおいなげ) 
8:腰投(こしなげ)
締形(しめのかた)
  8本
1:襟締(えりじめ)
2:廻し締(まわしじめ)
3:片手締(かたてじめ)
4:両手締(りょうてじめ) 
5:逆手締(ぎゃくてじめ)※または逆締(ぎゃくじめ) 
6:両釣(りょうづり)
7:脇釣(わきづり) 
8:腕釣(うでづり)
體形(たいのかた)
  12本
1:腰車(こしぐるま)
2:四ツ手(よつで) 
3:洞返(ほらがえし) 
4:腕流(うでながれ) 
5:鵲(かささぎ)
6:両手止(りょうてどめ)
7:水流(みずながれ)
8:柳雪(りゅうせつ) 
9:燕返(つばめがえし)
10:小蝶投(こちょうなげ)※ または小蝶捕(こちょうどり) 
11:瓢墜(ふくべおとし)※または瓢返(ふくべがえし)
12:風車(ふうしゃ)
無刀捕(むとうどり) 
 表(太刀捕)8本 
 裏(短刀捕)8本 
1:片手落(かたておとし) 
2:一文字(いちもんじ)
3:沈投(しずみなげ)
4:後捕(うしろどり)
5:平一文字(ひらいちもんじ)
6:正眼(せいがん) 
7:柄砕(つかくだき) 
8:松葉落(まつばおとし)
大小捌(だいしょうさばき)
 8本
1:片胸捕(かたむなどり) 
2:両胸捕(りょうむなどり)
3:両手懸(りょうてがけ) 
4:膽砕(きもくだき) 
5:馬止(うまどめ)
6:柄流(つかながれ) 
7:袖車(そでぐるま)
8:流し捕(ながしどり)
調形(しらべのかた)
  9本
1:飛違(とびちがい)
2:車返(くるまがえし) 
3:風捕(かざどり) 
4:來落(らいおとし)※ または阪返(さかがえし) 
5:逆投(ぎゃくなげ)
6:雨落(あめおとし)
7:天返(あまがえし)※ または天落(あまおとし)
8:瀧落(たきおとし) 
9:駒返(こまがえし)
扇子捕(せんすどり)
※ 鉄扇術
 表(太刀捕)8本
 裏(短刀捕)8本
1:片手落(かたておとし) 
2:一文字(いちもんじ) 
3:沈投(しづみなげ) 
4:後捕(うしろどり)
5:平一文字(ひらいちもんじ) 
6:正眼(せいがん) 
7:柄砕(つかくだき) 
8:松葉落(まつばおとし)
鉄板(てっぱん)
  3本
1:如風(じょふう) 
2:如雷(じょらい) 
3:如龍(じょりゅう) 
潜形(もぐりのかた)
 9本
1:極楽落(ごくらくおとし) 
2:地獄投(ぢごくなげ)※または地獄捕(ぢごくどり)
3:玉砕(たまくだき) 
4:鶯谷(おうこく) 
5:鬼伏(おにぶせ)
6:稲妻捕(いなづまどり) 
7:水鳥(みずどり)
8:來雪(らいせつ) 
9:五輪落(ごりんおとし)※または體落(たいおとし) 

 


[ 註 ]
1  九鬼宗家伝来の古文書には、すべて體術と記すが、別所家伝の目録や、戦後、高松澄水師範によってまとめらた伝書には柔術(じゅうじゅ つ)の用語ももちいられている。また、戦前の皇道宣揚会尚武局以降、一般的には柔術と呼ばれるようになった。
2  九鬼神流では、通常、他流で當身(あてみ)と称しているのを、當込(あてこみ)という。
3  戦国時代以前の技法については、口伝の一部に剛法(ごうほう)の伝が残り、往古の姿を髣髴(ほうふつ)させている。
4  9本という説もある(高松澄水編『中臣秘抄』−天津蹈鞴九鬼柔體術活法遍之巻・第三十六)。その目録は、蹴倒(けたお)し・拂形(はらい がた)・横倒(よこだお)し・股掛(またが)け・跳落(はねおと)し・跳上(はねあ)げ・跳釣瓶(はねつるべ)・外輪(そとわ)・腰車(こしぐるま)。
5  古くは、四寸(12cm)角の鉄板を使用したという記録がある(『天真兵法體術活法論』異本)。