流派の目録 その1・その2 ・その3その4その5その6その7その8
「九鬼神流棒術」 

 
 棒術は、流祖・薬師丸隆真が、後醍醐天皇より「九鬼姓」を賜わる端緒ともなった、九鬼神流を代表する武芸である。
 その母体をなしたものに、鎗と薙刀の両説があるごとく、用法についても、薙刀のように円く、両端を自在に活用する技法にくわえて、殆どの形の“止 め”に「突き」をもちいるなど、二つの特質を合わせ持つ特異な棒術である。また、その「突き」の延長として投棒(なげぼう) 1が加えられてのも、 大きな特色といえる。
 稽古で使用する棒には、六尺棒・半棒(はんぼう)・短棒(たんぼう)の三種があるが、通常、六尺棒を本伝とし、半棒は独立したかたちで伝授すること になっている。また短棒は、正式には扇子捕(せんすどり)と称して、半棒の皆伝形であるが、體術に於いては鉄扇(てっせん)術として使用 し、前者を八寸(24cm)、後者を一尺二寸(36cm)として区別・分類している。
 なお、棒の形状については、六尺(180cm)・半棒(90cm)ともに直径七分(21ミリ)の、白樫(しらがし)材の円形直棒をもちいる。もっとも、高松澄水師範が、九鬼宗家に宛てて、片方の棒端に五つ、もう一方に四つの、合計九つの、直径八分の鉄環を一寸(3cm)間隔に嵌(は)めた棒を製作するよう指示した手紙(昭和9年2月11日附)があることを、参考までに付記しておきたい。

武蔵野の葉蔭草蔭しげけれど、打込む棒は心の一本(「天津蹈鞴秘文解讀遍」巻之十三「九鬼棒術秘法遍之巻」より) 


 

六尺棒と受太刀用木刀 

 


 

棒術目録


構形(かまえがた)
 8本
1:上段(じょうだん)及び逆上段(ぎゃくじょうだん) 
2:中段(ちゅうだん) 
3:下段(げだん) 
4:平一文字(ひらいちもんじ)
5:横一文字(よこいちもんじ)
※以上の5本を「五輪(ごりん)の構え」という 
6:正眼(せいがん)
7:天地(てんち)及び逆天地(ぎゃくてんち)
8:天地人(てんちじん)及び逆天地人(ぎゃくてんちじん) 
起本形(きほんがた)
 表8本・裏1本
※振形(ふりかた)という
表形(おもてのかた) 
  11本
1:五法振(ごほうぶり) 
2:裏五法(うらごほう)
3:差合(さしあい)
4:船張(ふなはり)
5:鶴之一足(つるのいっそく)
※「鶴」の字は、本来は、“雨”冠の下に“隹鳥”と書く。
6:裾落(すそおとし)
7:一本杉(いっぽんすぎ) 
8:蔭之一本(かげのいっぽん) 
9:瀧落(たきおとし) 
10:虚空(こくう)
11:笠之内(かさのうち) 
※「差合」より「笠之内」までの9本を、特に「九字之形(くじのかた)」という
中極意(ちゅうごくい)
  14本
1:太刀落(たちおとし)
2:拂(はらい) 
3:小手附(こてづけ)
4:向詰(むこうづめ)
5:蹴擧(けあげ)
6:撃留(うちとめ) 
7:附入(つけいり) 
8:五輪砕(ごりんくだき)
9:天地人(てんちじん)
10:前廣(まえひろ) 
11:両小手(りょうごて) 
12:浦波(うらなみ)
13:玉返(たまがえし)
14:左右(さゆう) 
極意形(ごくいのかた)
 
十字六法九字止(じゅうじろっぽうくじどめ) 
※または「十文字(じゅうもんじ)六法九字止」ともいう。
皆伝形(かいでんがた)
  3本
1:棒寄(ぼうよせ) 2:搦捕(からめどり) 3:九字飛龍(くじひりゅう)

 

 


[ 註 ]
1  棒の中ほどに縄を付けて投げる技で、これを搦捕という。これには、免許口伝として、早縄(はやなわ)心得が付随する。
2  體術・扇子捕は、稽古の形としては、鉄扇術(表8本・裏8本)としておこない、免許時に伝授する口伝の形(免許の形)に於いて、はじめて 一尺二寸の短棒をもちいる。また、半棒・扇子捕(八寸短棒)は皆伝に位置し、その免許形には無数の変化技を包含する。この二つは、おな じ短棒でありながら、それぞれ、まったく異なる用法と趣きを秘めているところに妙味がある。