流派の目録 その1その2 ・その3・その4その5その6その7その8
「九鬼神流剱法」 

 
 九鬼神流では、古流で一般に剱術と称するところを、剱法と呼ぶ慣わしになっている他、独自の用語がある。左半身・右半身の表現が、他流のそれとは逆になるなどの点 1が、その一例である。
 流祖以来、九鬼神流の代表武術といえば、ただちに棒術を指すほど、その比重は大きかったが、実は、本来、流派の根本哲学である天真兵法の出 典ともなった『天真兵法心剱活機論(しんけんかっきろん)』そのものが、とりも直さず、剱の究極の境地を示したものであることに注目したい。
 とりわけ、江戸期になって、この傾向は顕著となり、綾部を離れて江戸へ出た師範家の代々は、皆、劔ををもって表芸としていた 2ほどである。
 形の特長とするところは、下からの“切上げ(跳上げ)−巻切(まきぎり)”を多くもちいる点で、第9代・九鬼大隅守嘉隆が、豊臣秀吉の命によって朝鮮に出兵した際、蔚山(うるさん)沖の海戦に於いて、弾丸に鎧の腹当(はらあて)を貫かれながらも、猛然と敵艦に飛びうつり、敵将の股間を逆切りにし て勝った事蹟3は、まさに、九鬼神流剱法の白眉(はくび)といえよう 。
 なお、剱法の目録中に投剱術(とうけんじゅつ)を付加して伝授することになっているが、これは、いわゆる手裏剱(しゅりけん)術のことで、表は、通常 の太刀、乃至(ないし)、短刀をもちい、裏では小柄(こづか)を使用する。棒術に於ける投棒(なげぼう)同様、得物を投げる技法を重視するのも、この流派の特徴といえよう。 

敵を唯打つと思ふな身を守れ、負けじと守る太刀のつよさよ(「天津蹈鞴秘文解讀遍」巻之十「九鬼剱法秘想遍之巻」より) 


 

木刀と受太刀用木刀 

 

投剱術で使用する小柄

投剱術で使用する手裏剣 


 
 

剱法目録


構形(かまえがた)
 10本
1:上段(じょうだん) 
2:中段(ちゅうだん) 
3:下段(げだん)
4:天地人(てんちじん)
5:正眼(せいがん)
※以上の5本を「五法(ごほう)の構え」という
6:捨身(すてみ)
7:水月(すいげつ)
8:太刀蔭(たちかげ)
9:片眼正眼(かためせいがん)
10:片手落(かたておとし)
※以上の5本を「変化無敵(へんかむてき)の構え」という 
起本形(きほんがた)
 表裏5本
※振形(ふりかた)という
表形(おもてのかた) 
  11本 
1:左片手薙(ひだりかたてなぎ)
2:絡薙(からめなぎ) 
3:切込(きりこみ)
4:突入(つきいり)
5:鮎薙(あゆなぎ) 
6:鞍落(くらおとし) 
7:水割(みずわり) 
8:衣拂(ころもはらい)
9:薙落(なぎおとし)
10:位取(くらいどり)
11:右落(みぎおとし) 
中極意(ちゅうごくい)
  12本
1:竹割(たけわり)
2:巻込(まきこみ)
3:體當(たいあたり) 
4:一撃(いちげき)
5:肩透(かたすかし)
6:座落(ひざおとし) 
7:斬釘(ざんてい)
8:殺剱(せっけん)
9:車斬(くるまぎり) 
10:雀落(すずめおとし)
11:真之突(しんのつき)
12:正刀(しょうとう) 
投剱術(とうけんじゅつ)
 表裏3本  
1:一文字(いちもんじ) 
2:魔風投(まふうなげ)
3:飛鳥投(ひちょうなげ) 
極意形(ごくいのかた)
  3本
1:一聲(いっせい) 
2:剱折(けんおり)
3:飛断(ひだん) 
皆伝形(かいでんがた)
  3本
妙風剱(みょうふうけん) − 1:風聲剱(ふうせいけん) 2:妙音剱(みょうおんけん) 3:無音剱(むいんけん)

 


[ 註 ]
1  一般的に、左半身とは“左足前、右足後”に半身に構え、右半身は、その逆の“右足前、左足後”の構えを指すが、九鬼神流では、構えた得物(長物(ながもの)の場合)の後ろの手を重視するため、“右足前、左足後”の半身を左半身左横一文字ともいう)、“左足前、右足後”に構 えるのを右半身右横一文字とも)と称する。
2  大正の頃、東京の浅草に於いて植芝盛平が学んだ九鬼神流も、やはり、劔を中心とした得物(えもの)の武術であったという(隆治公懐旧談)。
3  この時、嘉隆が使用した太刀を、後に、九鬼家では、釣股(つりまた)の名劔と命名し、重代の家宝としたという。